世にも毛妙な物語 目次


第一話 オールフリーという名の脱毛サロン ← 今あなたが見ている毛妙なページ
第二話 ムダ毛の価値観
第三話 ウブ毛の記憶
第四話 脱毛ルーム
第五話 悪戯なムダ毛


「うわー!バンドエード買っとくの忘れてた!もう時間ないし。。。最悪!」


ワキ・ひざ下・腕・手の甲・手の指のムダ毛を、
念入りに1時間かけてカミソリで剃るのが私の毎朝の日課。


たまにうまく剃れず、プツンと血が出てしまうことがあるため、
バンドエードは私にとっては歯ブラシと同じくらいの重要度を持つ生活必需品だ。


奥田愛子。22歳。就職活動中の大学4年生。
いたって普通の大学生なのだが、ただ一つ普通ではないことがある。


とても毛深く、朝カミソリで剃っても、夕方前には生えてくる。
毛深いというよりも、毛が生えてくるスピードが速いという表現のほうが正しいのかもしれない。
おそらく普通の20代女性の数十倍は速い。


付き合っている彼はいるのだが、
毛の成長を考えると長い時間一緒にいることはできない。


6時間がタイムリミットだ。できることなら3時間でその場から失礼したい。
ウルトラマンみたいな気分だ。人助けは一切しないけど。


ましてや、一夜を共にすることなど…
彼はいつもデートを早めに切り上げる私に不満を持っている。


毎年開かれる大学祭のビューティーコンテストに出てみたいのだが、
水着審査がネック。絶対に出られない。
毛さえなければ、ルックスにはそこそこ自信があるのに。



じゃあ脱毛すれば?と誰しもが言いたくなるのだが・・・


脱毛しないのにはちゃんとした理由がある。


脱毛サロンに行かないのは、お金がないから。
愛子は奨学金をもらいながら大学に通う苦学生。


バイトを2つかけもちしているが、バイト代は全て生活費に当てられている。
脱毛サロンにお金を使う余裕などない。


ましてや脱毛サロンへ通う時間も愛子にはない。


大学4年生だが就職もまだ決まっていないため、
就職活動・大学・バイトのトリプルパンチ。
とても多忙な日々を送っている。


毎朝の1時間のカミソリタイムも、それだけだと時間の無駄なので、
メールチェックをしながらカミソリで剃っている。


毎朝のことだから、それでも全然綺麗に剃れるのだ。
たまに今日みたいに、切って血が出てしまうこともあるのだが・・・


メールチェックは就職活動関連のものがほとんどだ。
中には就職希望の企業との大事なメールもあったりする。


いつものように1通1通チェックしていくと、見慣れないメールが。





無料で脱毛・・・


怪しすぎる。
迷惑メールは1日に何通かは毎日届くのだが、
それらと比較してみてもこのメールはひどい。


ほとんどの人がこんなメールは無視するだろう。
私もいつもならそうだ。開きもせず即削除だ。


だが、大学最後のビューティーコンテストが近づいていたこと。
そして、彼から別れを切り出されていたことが、私の背中を押した。


何より、お金がない愛子にとって、無料で全身脱毛できるのは、
まさに夢のような話だった。

大丈夫、まずは話を聞きにいくだけだ。
危なかったら、強い意志で断ればいい。
私も大学生とはいえ、ちゃんとした大人だ。それくらい出来る。


電話連絡をし、2日後の午後に予約を入れた。



ルール説明


脱毛サロンへ到着。
綺麗で立派な脱毛サロンで、セレブが通っていそうな高級感が漂っているため、
大学生の愛子は、場違いじゃないか?と居心地の悪さを感じながら入店した。


「奥田愛子様でごさいますね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」


応接室に通される。
この脱毛サロンのオーナーと名のる女性が説明をはじめる。


「今回は、突然のメールで驚かせてしまい申し訳ございません。
 今回ご紹介させていただくのは 
 今までの脱毛方法とは全く違う新しいタイプの脱毛方法です。


 たった一時間で全身の全ての永久脱毛が完了してしまいます。
 愛子様が了承してくだされば、この後すぐに実行できます。


 そして、モニターですから完全無料でやらせていただきます。
 後になって料金を請求するというようなことも一切ございません。


 ただし・・・・・」


きた。やっぱり何か条件があるんだ。
こんなうまい話があるわけがない。。。


条件によっては、すぐに店を出ないと。
愛子は店を出る準備を始めた。


「ただし・・・・・3つのルールを必ず守って頂く必要があります。
特殊な薬を使用してでの脱毛ですので、
その効果を持続させるための禁止事項です。」





愛子は一度冷静になって考えてみた。


どれもそんなに難しいことではない。
というか、普通に生活している限り1・2・3のような機会はない。


普通の人なら「2」が引っ掛かるところだろうが、
愛子は自他共に認めるカラスの行水。
シャワーだけで済ますことも多く、湯船につかるとしても5分が限度。


やろうかな?と心が揺らぐ愛子。でもまだ信用できない。


「あの・・・でもどうして無料なんですか?」


「モニターみたいなものです。
 一ヶ月後に再びお電話いたしますので、感想をお聞かせください。
 それだけで十分です。他にこちらが何か求めることはありません。」


「なんで私のメールアドレスをご存じだったんですか?」


「大学の名簿を手に入れまして、ランダムでメールを差し上げたんです。
 あなたは、ホント幸運なんですよ。
 やりたい子は、山ほどいると思いますよ。」


まだ怪しいと疑う気持ちは晴れてはいなかったのだが
、 毎朝1時間のカミソリタイムがなくなることは愛子にとってはとても魅力的で、
全身の永久脱毛をする決断をした。


本当に1時間程度で終了。痛みもほとんどなかった。


私にも運がめぐってきたのだろうか。。。
愛子はそんな気分で脱毛サロンを後にした。


帰り道。


ルールを破ったらどうなるのかを聞き忘れたことに気付いた。


ま。いっか。


どうせ3つとも破ることはなさそうだし。



無駄毛がなくなっただけでこれほどまでに気分が変わるのか?


愛子は次の日からまるで別人のようになっていた。


毎朝1時間のカミソリタイムもいらない。
もう、毛に関する心配事が全てなくなる。


友達からは、明るくなったね!とか、かわいくなったね!とか
言われるようになった。表情・雰囲気が変化したんだろうか?


デートの時間も長くできるようになり、彼氏ともうまくいき始めていた。
別れ話をしていた彼だったが、その話もお蔵入りになっていた。


脱毛をしてから1週間後の日曜日。
愛子は仲直りをした彼氏とカフェでデートしていた。


会話も脱毛完了する前より妙に弾む。
これは愛子がもう毛の心配をしなくていいということで、
前向きになれていたことが影響しているのだろうか。


ウエイトレスが氷の入った水を持ってきたが、
つまづいて、なんと愛子の太ももにかけてしまった。


普段はミニスカートなんてはかない愛子。
でも脱毛した今、肌をどんどん露出したい気分なのだ。


「キャッ!もうしわけござしません!」


はっ!氷水。
これは、0度以下の水を浴びたことになるのでは。。。


「おい!それ!大丈夫か?!」


太ももが赤く腫れている。
心配だったら10分もすれば腫れはひいてしまった。


ルールを破っても、こんなものか・・・
愛子は安心した。



就職活動・大学・バイト・彼氏とのデート


忙しい。けれど充実していて楽しい。そんな日々が続いていた。


ある日の夜、愛子は疲れがたまっていたのか。
湯船に使ったまま寝てしまう。


「まずい!何分たった?」


体に何か変化は…?


「キャア!!!」


今度は、全身が真っ赤に腫れていた。
少し熱をもっている。


すぐにお風呂から上がり、体をさましてみた。


また10分で戻るのだろうか?
だが前のようにすぐ元に戻ることはない。


赤く腫れたままだ。痛みはないが、大丈夫だろうか。。。
病院へ行った方がいいのだろうか。


とりあえず、今日は寝て、明日もこのままだったら、
まず、あのサロンに電話してみよう。


心配をよそに、次の日には元に戻っていた。


あぁこの程度か。
でもちょっと怖いからもう、ルールはもう破らないようにしよう。



ついに念願だった大学祭のビューティーコンテストへの出場が決まった愛子。


全身脱毛してツルツルだから、もう出場しない理由はなくなった。


そしていよいよ、水着審査。
審査も終盤となった時、司会の男性がこう言う。


「今年から特別審査が加わりました。
 水着美女たちに、、、
 熱湯風呂へ入っていただきます!」


「・・・!?」


「入った秒数やその時の表情・リアクションが審査され、
 点数に加算されます!みなさん頑張ってください!」


観客の男子学生たちは騒いで会場を盛り上げている。


「温度は、、、45度です!」


もう2つもルールを破ってしまった。
3つ目のルールは、絶対に破ってはならないとあのオーナーも言ってたし。


もう、危険は犯したくない。
でも、夢にまで見たビューティーコンテストで1位を獲りたい!


くだらない事を思いついた主催者を呪うわ。。。
よりによってなんで熱湯風呂なんだ。


でも、ルールを破ってもそんなにたいしたことは起こらなかった。
2、3日体が赤く腫れた所でなんだ。
ここまで来たら優勝したい。
えーい!なるようになれだ!


「ドボーン!」


「奥田愛子さんの記録!なんと17秒!」


熱湯風呂から出ても、なぜか赤く腫れることはなかった。
皮膚は、ほんのりピンク色に染まる程度で終わった。


それが私の色気を増す結果になったようで、
結局私は、、、


優勝した。



深夜、布団の中でふと目が覚める愛子。


永久脱毛してから、何もかも上手く行き始めている気がする。
きっと運勢が変わったんだ。


欲しいものは、全て手に入れた。


大企業からの内定3つ
ビューティーコンテストクイーンという名誉
そして・・・彼


隣で寝ている彼は気持ちよさそうに寝息をたてている。
昨日の夜が彼との初めてのベットイン。


これが幸せというやつなのか?!
満面の笑みで、再び眠りにつく。


明け方近く 再び目が覚める。


ざわ


ざわざわ


ざわざわざわ


あれ?彼ってこんなに毛深っかっけ???
変だな、何か体がゴワゴワする。


んー息苦しい!何か皮膚に違和感が。。。
がばっと跳ね起き、自分の体を見てみる。


再び毛が生えていた。
その毛は、剛毛で太く、全身から生えている


カーテンが揺れ朝日が差し込んでくる。
鏡に写った私の姿は、まるでゴリラのようだった。


「ギャー!!!!!」



隠し監視カメラで愛子の部屋の様子を 脱毛サロンのオーナーと博士風の男が見ている。


【博士】そうかーこの脱毛薬は、45度以上の湯船に浸かると
とんでもない量の剛毛が生えてきてしまうのか。
これじゃー実用化は無理だなー。。。


【サロンオーナー】まだまだ、改良が必要のようですね。


【博士】ほんとこの子からは、いいデータがとれたよ。
なにしろ、3つとも禁止事項を破ってくれたからね。


【サロンオーナー】正式に人体実験やろうと思うと、
厚生労働省の認可やなんかで、手続きが大変ですからねぇ。


【博士】しかし、君も悪人だねぇー。
自分のサロンのためにこんな若者をだまして。


【サロンオーナー】いいえ、だましてなどいませんわ。
ちゃんと説明してますもの。
本人了承の契約だからフェアな取引ですよ。
うふふふ


【博士】では、今回の結果を元に、すぐに改良版の薬の調合にとりかかろう。


【サロン院長】では、わたくしは、次の被験者候補にメールを送っておきますわ。



世にも毛妙な物語【第一話 オールフリーという名の脱毛サロン】完



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第四話 脱毛ルーム
第五話 悪戯なムダ毛